1998年9月23日 後楽園ホール  大日本プロレス


 ロシアの文豪、ドストエフスキーに「鰐」という小説がある。ワニに呑まれ た男がワニの腹の中から人類を啓蒙する言葉を発信し始めるという話。シベリ ア流刑となった当時の空想的社会主義者チェルヌイシェフスキーを皮肉ったも のと誤解され、ドストエフスキーが進歩派文壇の非難中傷を一身に受ける原因 ともなった。ロシア革命ももはや歴史の1頁として学校の「世界史」で学んだ だけの者にとって、「鰐」はこじつけでもしなければ政治的な意図など読みと ることの難しい喜劇短編である。ただ強烈に覚えているのは作中の婦人の言葉 「まあ、あの鰐、なんていやらしいんでしょう!」。ワニという動物は100 年前のヨーロッパにおいても珍しいものだったらしい。
 小説に描かれたワニで他に思い出すのは村上龍「コインロッカーベイビーズ 」か。作中の少女アネモネは語る。「欲望の国の王様はワニなの。」そう、ワ ニは思索なんてよけいなものとは無縁なのである。純粋でストレートな食欲の 象徴。「もし」も「しかし」もなく、ワニはただ喰らう。
 ワニは我々の憧れ。ワニのように生きてみたいと誰もが思うであろう。直接 的に鋭く餌食にかぶりつく。それは暴力的で、同時に美しい。この日、大日本 プロレスの松永光弘とWXの試合で、敗者がワニに喰われると聞いた。これが ライオンだったら見に行かなかったはずだ。ライオンは百獣の王ながら、時に は尻尾を巻くし、妥協も協調もある。しかし、ワニ! 奴の黒い鼻面の前に立 つ者が誰であれ、奴にとってはただの肉でしかない。俺はワニを見に後楽園に 行く。どうせなら、ワニな一日にしたかったので、その前に新宿の 「ローズ・ド・サハラ」でワニの唐揚げを食べてこようと思った。ま、結 局、その代わりに赤坂の「九州じゃんがらラーメン」に行ってし まうのであるが。いいや、試合の話。
 バルコから見ようと思っていたのだが、立ち見が売り切れていたので、40 00円の指定席を買う。会場は7分の入り。北側と南側はちょっと寂しいかな。 立ち見客もそんなに多いわけではない。さては立ち見券、あまり発売しなかっ たんだろうな。これやってると、またシッシーが怒るぞ。正義面、下げて。
 ヒロケンさんたちが来ているだろうと思い、ロビーに立っていると、首領さ んに会う。首領さんに紹介していただいたおかげで、今までネット上だけで知 っていた方々に挨拶することができた。れねさん、ZEROさん、ROMラン ド・ボックさん。大仁田のことなど話す。奴が大日本にやってくるという見方 は依然消えちゃいない。ある方は「FMWはいずれ全日を抜くでしょう」とい うありがたいお言葉。それはどうでしょうか。(^_^;
 第1試合は知らない若手同士の対戦。ダメではないが、こなれてない感じ。 技をかけるタイミングや当たり判定(^0^)がちっとまずいような。第2試合で は負傷中の市来ポンが登場。ニワトリみたいなマスクウーマン、ラチョラをパ ートナーに中野&マルセラと対戦、思ったよりずっと動けていたが、マルセラ のライガーボムにラチョラが唐突にフォール負け。市来のカットが遅れたら、 そのまま入ってしまったのである。少し白けたか。第3試合、第4試合は松崎 駿馬、川畑輝鎮、茂木正淑といったインディ流れ者達を久しぶりに見られた。 彼らはマニアになりかけくらいのプロレスファンならたいてい知っている名前 であり、そこそこの実力もある。しかしながら、これ以上あがっていけそうに ない。中牧は今や彼らより格上のはずだが、今日は存在感を出せなかったよう だ。大きさで見せてしまう高木の方が光った。
 ここまで見て感じたのは、プロレスに対する観念がFMWとは根本的に違う のか、「良い試合」をしようという姿勢があまりないようだ。最近のFMWな ら、前半はグラウンドに取り組み、後半はスピーディーな大技で盛り上げ、試 合を淀みなく流し、(誤解を受けそうな書き方になるが)双方協力の下 に良い試合を作っていこうという姿勢が感じられる。こっちはもっと双方が勝 手にプロレスしちゃう感じ。どっちが上というのではなく、ただ好みで別れる 部分だろう。大日本の試合は綺麗ではないが、自由だとは言える。ただ、当た り判定が甘いのはちょっと気になるところ。ドロップキックとか、ほとんど相 手に当たっていない。これだったら女子プロのとかの方がはるかにエグいよね。
 次に懐かしいテーマ曲でグレート・ポーゴ登場。あっという間に源之助GK 小林がシャドウ・ウィンガーにオキャノンボムでフォールを取られてしまう。 と、マスクを取った源之助、ポーゴ張りのメイク。なんと源之助はポーゴから心 身共に洗脳されているということらしい。かくして、ポーゴ軍は源之助を加え、 GK軍は小鹿と越後を加えての10人タッグマッチで再戦となった。ポーゴの 鎖鎌で大流血の越後。額から血が水鉄砲のように吹き出ているのである。奮闘 むなしく源之助が越後をフォール。
 ここで中休み。ロビーで見つけたオバケさんやK☆INGと立ち話をする。 すると、首にコルセットをつけた市来が歩いてくる。憂鬱そうな顔。でも、こ の子、やはり綺麗やね。濃い連中の迫害にめげず、がんばれよ。(^_^; 革真と は切れたという噂だが、大日本を定宿にするのか。だとしたら、いいことやね。 生活、少し楽になるんじゃないか。
 セミファイナルは本間がバトラーツの臼田のジュニアヘビー王座に挑戦する タイトルマッチ。本間は生で見るのは2回目だが、こんなでかかったっけ。臼 田よりもでかい。臼田という選手は見るのは初めてなのだが、イズマイウとも 戦った経歴とそのガチガチな雰囲気で、かなり強い人というイメージがあった。 実際に試合を見ると、パワーでは本間が優勢、関節技でも互角、なんだ、普通 のレスラーじゃないの。というより、本間に驚くべきなのか。キャリアを考えると、す ごいというしかない。
 試合開始からいきなりパイルドライバー、ロコモーションジャーマンを仕掛 け、終始試合を優位に進めた本間だが、ひとつ臼田に大きな差をつけられてい たのがキックの技術。本間のキックはこれほど多用するような立派なもんでは ない。そして、そのキックの差が勝敗を分けた。本間の顔面を捕らえた臼田の 強烈なキック。その瞬間、口から白いものが飛んだが、歯ではないだろうね?  失神KOの本間。ベルト奪取はならなかったが、良い試合だった。本間が山 川あたりに肉薄する日も遠くはないだろう。


メインイベント 松永光弘 VS シャドウWX

デスマッチのリング
今日はメイクが薄い
「フラッシュ! アアー!」この曲が会場に流れると、鳥肌が立ちそうになる。 同じデスマッチ王でも、大仁田厚が明るいイメージでマスコミに露出し、大衆 に認知されることによって拡散してきたのに対し、松永はファンを選び、求道 者としての態度で凝縮してきた歴史が彼にこれだけのカリスマ性を与えたので ある。決して笑わず、寡黙で、いとも簡単に一線を越えてくれたデンジャー。 それを俺は「決して正当化され得ないプロレス」と呼ぼう。全日や新日は家族 で見られるファミリーエンターテイメント。大仁田のデスマッチでさえ、それ を愛と勇気とかいう言葉で語ることもできる。しかし、松永のデスマッチにあ るのは、決してそんな手に取りやすい何かではないはず。松永の試合を考える 時、そこに宗教的な苦行者としての姿を自分は見てしまう。言い換えれば、変 態だ。現代社会で求道的に生きることなどは即ち反社会的であり、変態の同義 であると断言してもいい。それ故に、松永光弘は危険な存在であり、そのプロ レスは決して自分の家族と一緒に見るようなものではない。極論すれば、松永 のプロレスはSMやスナッフムービーの一種であり、真に反社会的な悪のプロ レスである。
 そして、それ故に俺は松永光弘に惹かれるのであるが。
 リング上には有刺鉄線ボードが2つ、蛍光灯ボードが2つ、それぞれ4隅に 立て掛けてある。マットに横たえられた五寸釘ボードは錆びていて、逆におぞ ましい。ギミックだらけのリングをしばらく回る両者。組み合うと、松永がW Xを蛍光灯の方に押し込んでゆく。ハラハラして、思わず耳を押さえてしまう。 この時は逃れたものの、すぐに最初の被弾。WXが蛍光灯ボードに激突し、破 裂音が響く。その後、場外戦。「売店だ!」ヒロケンさんがカメラを持って、 駆け出してゆく。しばらく戻ってこない両者。
 シャドウ・ウィンガーや源之助が蛍光灯ボードを場外へ運んでゆく。南側の 廊下で松永がWXを蛍光灯ボード上にブレインバスターで投げる。よく見えな かったが、これが大迫力。すさまじい破裂音が響く。今度はWXの番。北側の 入り口のあたりに有刺鉄線ボードと蛍光灯を設置して、そこへ松永を落とす。 もう言葉も出ない。リングに戻り、蛍光灯を手に取ると、自分の頭に叩きつけ て割ってみせるWX。こいつも相当なもんだ。松永、WXを蛍光灯の上へDD Tで叩きつける。松永の肌にガラスがキラキラ光る。背後から有刺鉄線バット で締め上げる松永にWXは蛍光灯の破片を叩きつけて、脱出。この時、破片が 1人の客に当たり、なんと客も大流血の惨事。大日本を見に来て、無事では帰 れない。
 シャドウウィンガーたちが設置しておいたイスの上の五寸釘ボードに叩きつ けられた松永。3カウントが入る。あっけない感じもしたが、五寸釘ボードと いうアイテムのインパクトを考える時、そう思ってはいけないのであろう。そ のうち観客は選手の腕がちぎれても、あっけなかったといってるかもしれない。 リング上がエスカレートしていくことに対する懸念はファンの間にもある。大 仁田がFMWを旗揚げしてデスマッチを始めた時も、すぐにそうした疑問がプ ロレスマスコミの側から大仁田に投げかけられた。それに対し、大仁田厚はは っきり答えている。「エスカレートさせていけばいいじゃないですか。それで 潰れるんなら、それでも良いんです」しかし、現実にその後の大仁田がエスカ レートさせたのは爆薬の量だけだった。デスマッチの方向性をエスカレートさ せることを実験的に追求しているのは松永光弘だけだ。最初から自分の行く末 を知り、確信犯として危険に挑むこの男にどんな批判が有効だろうか。残酷さ をエスカレートさせていったら切りがないというデスマッチ批判など、その切 りがない一線を越えたところに自ら歩みたがっている男にとっては紋切り型の 一般論である。


番外 松永光弘 VS ワニ

 今度はワニとの対決。ワニの入った1.5メートルほどの容器が運び込まれ、 逃げないようネットが張り巡らされた。そして、棺桶も。松永、再入場。容器 をひっくり返し、ワニをマット上に出した。
 小せー! 尻尾を入れても、1メートルくらいじゃないか。俺がマレーシア で見た野生のトカゲと同じくらいである。上から踏めば、一発で殺せるじゃな いか。この時点で、今まで抱いていた緊張感をすべて解除する。噛まれれば、 ケガはするかもしれないが、松永を頭から呑み込むことなど決してできそうに ない。俺は2メートルくらいの奴が来てくれるものだとばかり思っていたのだが。
 松永もどう試合を作ったらいいのか困った様子で、リング下の小鹿社長とし ばしば話し合う。しっぽを掴んで持ち上げて、棺桶の中に入れる。そして、棺 桶を揺らしたり。ワニコールが起こる。しばらくたつと、進展のない試合に、 ヤジが多くなる。「もう撤収で良いよー」「動物をいじめるな」俺の近くの女 の子の軍団はワニがかわいそうだと本気で怒り出す。
 松永、ロープでワニの首を縛り、棺桶に再度放り込んだところで、KO勝ち。 時間は5分ちょっと。マイクをつかみ、「大きくなって帰ってこいよ」。さす が、センスがいい。これにはみんな、拍手。


 退屈な試合もあったが、まあ、良かったんじゃないか。名勝負よりも凄みで 見せるのが大日本なんだろう。久しぶりに開放的なプロレスを味わった。この 感じ、旗揚げ直後のFMWのよう。って、あそこはもっとめちゃくちゃだった けどさ。
 1階に集まったのは、いつものメンツ約10人。FMWじゃないのに。よほ ど、みんな、ワニが見たかったらしい。4人で949に行く。ここにはワニの ステーキがあるという噂だったのだが。
(今回、すべての写真はヒロケンさんに提供していただきました。)


熱川バナナワニ園
HOME


[PR]当たる!無料占いで仕事鑑定:大人気!無料占い『スピリチュアルの館』