1998年8月15日 秋田県皆瀬村とことん山  FMW


 高速を8時間も突っ走り、東北自動車道を築館インターで降りた。道は次第 に農村へ。立て看板には「広げよう。牛飼の輪」。ドライブインで手打ちそば を食べた。少し色褪せたハヤブサの顔写真が目にはいる。「みちのくメルヘン 物語’98」のポスターなんである。
 さらに山の中に入る。すごく霧が深い。10メートル先も見えない。いった い、俺達はこんなところに何をしに来たんだ? 心細い気持で、車を走らせ続 けると、下り坂になり、視界が開けた。小さな温泉町、皆瀬村である。民宿が 道路脇に軒を並べている。
 今夜の宿はたまたま飛び込んだ民宿「浜の湯」に決めた。今時分、6千円な ら、高くはないだろう。畳の部屋でお茶を飲む。ほんのかすかな旅情。しばら くぼーとしてから、今日の会場であるとことん山に行く。
 とことん山というのは小さな丘のような感じだ。道なりに上っていくと、F MWのバスが。誰かの足が窓にへばりついてる。どうも外道らしい。少し行っ た先にアスファルト敷きの広場があって、そこに見慣れた赤と青のリング。こ こが会場なのだ。リングの背景は山。山をバックにハヤブサが飛ぶのだ。観客 席にはテントの屋根のようなものもあり、雨でも大丈夫。その周りではフェニ ックスもTNRもチーム・ゼロも中山香里もごちゃまぜでうろうろ時間を潰し ているようだ。信じられない取り合わせが談笑している姿もあったのだが、こ こは一応全国区のネットなので、あまり触れないでおこう。(^_^;
 新聞紙を取りに自分の車に戻ると、ヒロケンさんを発見。なんでもさっき温 泉にいたら、中川と外道が素っ裸で入ってきたとか。って、服着てる方が変か。 中にいるじいちゃん達はもちろん彼らがレスラーだなんて知る由もない。ここ はそういう町だ。プロレスマニアなんて邪悪で役に立たない人種はこの素朴な 町にはいちゃいかんのだ。
 じゃんけんゲームが始まる。1回戦はポーゴVS浴衣の女性。ヒロケンさん とK☆INGが参加し、浴衣の女性に賭けたのだが、なんとポーゴの勝ち。
「ポーゴらしくないな」
「こんなところで勝ってるから、試合で勝てねえんだよ」
 司会のお兄さんが「さすがにポーゴさんは強いですね」なんて言って盛り上 げているのに、失礼じゃないか! って、一番いろいろ言ったのは俺か。次は 大矢さんも登場し、じゃんけんゲーム、なかなか佳境である。試合が始まるま では長い。ビールと焼き鳥にご登場願う。皆瀬牛の串焼き(1本400円)も。 高いなーと思っていたが、口にすると、これがすごくうまい! 口の中で溶け るような柔らかさなのだ。皆瀬牛、噂以上の実力者のようだ。
 我々は新聞紙で自分らの領土を主張していたんだが、隣の一団のお兄さんが ビールを倒して、我らの領域を水浸しにしてくれた。と、ひょんなことから会 話がはずむのである。この会場に集まっているのはほとんど三沢も蝶野も知ら ないプロレスと言えば馬場猪木な人たちなのだが、隣にいらした方々はかなり コアなファン。プロレスカードをごっそり持ってたりする。知りあったばかり でも、プロレスファン同士は話が早いものだ。プロレス話に花が咲く。ためし に訊いてみる。
「インターネットできる環境ですか?」
「ええ。不死鳥教団ってとこをいつも見てるんですよ」
 顔に血が昇る音がする。恐縮、この上なし。まじめな人間になります。もう 変なこと、バカなことは二度と書きません。彼らは昨日のみちプロで知り合っ た人々だとか。子連れのFMWマニアなお母さんもいる。え、今度のチッタに も来られるんですか? よろしくお願いします。
 ちなみにマスコミは予想通り週プロだけ来ている。週プロは「FMW、過疎 の村で町興しプロレス」とか「新日軍団、離島での戦い」とか、そういうのが 好きだ。意地悪い言い方をするなら、なんでもマスコミベースに乗せたがると いうか。でも、ここのほとんどの人たちは週プロなんて読まないし、今日の試 合を雑誌で振り返ろうなんて思わないだろう。このリングで展開される現在進 行形のものだけが彼らにとってのプロレスなのである。


第1試合 フライングキッド市原 VS 中川浩二

 とてもメモを取るような環境ではないので、試合の細かい部分は覚えていな いのだ。しかし、これはいきなり大熱戦。市原のベストバウトではないかと我 々は思う。「いちはら♪」と聞き慣れた声援をバックに中川を一方的に攻めま くる市原。「あの声がここでも…」と隣のお母さん。あなたも結構コアだぞ。
 中川の足への攻撃から、場外乱闘を挟み(市原が場外乱闘だぞ!)、ムーン サルトも決めたが、やりたいだけやらせた中川が急所蹴りから一気に丸め込み。 中川の完勝だったが、これほど市原の多彩な攻撃が見られるなんて滅多にない ことだ。観客の反応は我々の一角を除いてけっこう重いのだが、その分子供達 の声が目立つ。市原は皆瀬村の子供達にも人気抜群でした。子供はいい人をち ゃんと見抜くんでしょう。

子供達の前で乱闘インディアンデスロック


  第2試合 黒田哲広、保坂秀樹 VS ミスター・ポーゴ、佐々木嘉則

 これもいい感じ。ポーゴと佐々木が合体喉輪、サンドカッターなど大技を連 発して保坂を圧倒する。黒田に背中を思い切り蹴られても怯むことなく、蹴り 返していくポーゴ。試合は始終ポーゴ組が押していたと思う。
 黒田はテーマ曲も変わり、コスチュームは黒いトランクスになった。と○よ しさんが見たら嘆くんではないか、などと話す。保坂のコスチュームは相変わ らず土方ルック。K☆INGがでかい声で「ロボ!」。誰もわかんないってば。 と、お母さんの子供ちゃんも「ロボ!」。子供は素直です。悪い言葉は教えち ゃいけません。
 やられていた保坂がフランケンシュタイナー、スパインバスターで逆転。黒 田は「行ったるぞー! みちのくメルヘン’98!!」と叫んでからのダイビ ングエルボー。最後はポーゴ組の攻撃を余裕を持って受け止めた黒田が佐々木 をクロスアームスープレックスでピン。

黒田のコスチュームに注目いいぞ、佐々木


第3試合 邪道 VS 非道

 大仁田主催興行で俺を激怒させた無気力試合の再戦。今回はさほど悪くなか ったような気もする。同じような試合でも会場の空気で良く感じられたりダメ だったりするから、いいかげんなもんだ。邪道のグラウンドでの攻めがなかな かごつごつしているあたり、見応えがあった。ともかく、雨の中で出し惜しみ のないプロレスをやる姿勢は評価されていい。
 やられていた非道がパンチで応戦すると、俺は「ロッキー!」。お母さんの 子供ちゃんも「ロッキー!」。いい子。すると、お母さん、「どっちとも嫌い !」。お母さん、あなたって人は…。正直だけど、そこまで言っちゃヤダ。
 最後は後楽園と同じネタ。「非道ちゃんボンバー!」と叫んだ途端に喰らっ た邪道のウェスタン・ラリアットでケリ。

背中に「2000」もっといじめてやってください


第4試合 大矢剛功 VS 外道

 隣のお兄さんと話す。
「僕はね、大矢のパンタロンが好きなんですよ。無我に出てからショートタイ ツになってしまいましたよね」
「藤波から悪い影響を受けたんでしょう」
 外道の腕攻めと伊藤豪のコールドスプレーによる眼への攻撃をこらえた大矢 がカウンターのネックブリーカーで反撃。最後はバックドロップ(いまいち) から卍固めで勝利。あまり大技を出さないで、ぬるくならない試合ができるあ たりは2人とももはやベテランってとこか。
 なぜか試合後、山崎が伊藤豪にコールドスプレーを眼にやられて、もがき苦しんでいた。
腕攻めこれもそう


セミファイナル ハヤブサ、リッキー・フジ VS 冬木弘道、金村ゆきひろ

 この試合から雨がざあざあ降りに。しかし、嫌がる素振りも見せず、むしろ 嬉しそうに試合をしている4人。フットルースとして登場した冬木組はハヤブ サ組の分断に成功、連係プレーでハヤブサを10分近く防戦一方に追い込 む。その攻めのシビアさ、後楽園といささかも変わるところなし。隣のお母さ ん、思わず「白ブタ、帰れ!」。それ、反則だよ。(^_^;
 ハヤブサがカウンターのスクリューキックを金村に見舞ってから、リッキー につないで反撃開始。場外マットもないのに、アスファルトの上でケブラ ーダを冬木に見舞うハヤブサ。さすがにこれは湧いた。滑りやすい濡れたロー プを使ってのスワンダイブ・トペ・アトミコも見事成功。この山の中の会場の 提灯の下、濡れたアスファルトにヒザを突いている姿はプロレス界のスターと は思えない。でも、これがハヤブサという男。これがFMW。コスチュームが ぐっしょり濡れても、後楽園と同じ懸命ファイトをする姿に胸が熱くなった。
 しかし、ここでアクシデント発生! ハヤブサのマスクの口の部分はご存じ の通りメッシュになっている。それが雨に濡れて水滴がメッシュの網目を覆い、 ハヤブサが呼吸困難に陥ってしまったのだ。口のところを持ち上げたり、中か ら「ぶー!」と吹いたりして、呼吸の確保に努めているハヤブサ。意外な盲点。 ハヤブサの弱点は水だ!
 そんなことも影響したのか(?)、ハヤブサが金村に足止めされているうち にリッキーが冬木のラリアットでピン。しかし、最悪のコンディションの中で も、いつもと変わらぬ試合をしてくれた4人。選手はもちろん、俺達も吹き込 んだ雨でびしょ濡れ。休む間もなくメインのバトルロイヤルへ雪崩れ込んでゆ く。中止になると思っていた一部の客はびっくり。中止なんかしないさ。これ がFMW。

リッキー・コネクション(知ってる?)雨の中を飛ぶ
いつもと変わらぬ試合やたら元気な金村。河童みたいだ


メインイベント バトルロイヤル(16人参加)

 土砂降りの中、嬉しそうな奴ら。にこにこしながら、いろいろなところで局 地戦が起こる。それも一段落すると、全員に狙われたのは山崎。みんなに順番 にボディスラムをかけられる。フェニックスもTNRもチーム・ゼロも関係な し。ハヤブサなんて一番、力いっぱいやってた。続いて、コーナーに詰められ、 順番に串刺しラリアットの餌食。俺達は山崎コールで支援。すると、冬木にボ ディスラムにをかけられるところ、スモールパッケージに丸め込み、他のレスラー も上から押さえて、フォール! 山崎が冬木からフォールを取っちゃった。ま た大山崎コール。すっかり気をよくした山崎、コーナーに上って俺らの方にア ピール! と、誰だったか忘れたが、山崎の足を取って、マットに叩きつける。 そのままフォール。…はは。(力ない笑い)
 バトルロイヤルは選手が多いので、レフェリーも2人。テッドと姉崎がリン グ内にいる。なぜか狙われたテッド。みんなに押さえ込まれて、ピンフォール 負け。レフェリーも1人退場。よくわからんぞ!
 俺達が黒田コールをすると、すでに失格した大矢さんがやってきて、「押さ えて、押さえて」のポーズ。そして大矢さん自ら「ハーヤーブサッ、ハーヤー ブサッ」。フェニックスはハヤブサ1人になって、目立たないようにして、T NRとチーム・ゼロの目を逃れているのに、コールなんてしちゃダメじゃん。
 しかし、応援の甲斐あってか、最後に残ったのはハヤブサと非道。非道、ス モールパッケージホールドを6回も仕掛けるも、ハヤブサはことごとくクリア ー。逆にハヤブサがスモールパッケージをかけると、1回で決まりました。最 後まで和み。ともかくハヤブサが優勝。そして、お客さんにこいこいと手招き。 雨が降る山の中でマットばんばんが始まる。選手ががんばってるのに、濡れる ことを気にしてはいられなかった。トンボを斬るハヤブサ。山の中での無料興 行、少ないお客さん、ざあざあ降りの雨の中での屋外、こんな時でもハヤブサ とFMWは手を抜かないのだ。信頼を明日につないでいくために。冬木や金村、 邪外もすごく楽しそうにプロレスをやっていた。こいつら、本当にプロレスが 好きなんだな。
 ハヤブサのマイクの後、リッキーのマイク「風邪ひくなよ!」で締め。その 後、みちのくメルヘン’98の実行委員の方がリングに上がり、「FMWのプ ロレスを皆瀬村の皆さんに見ていただきたいと思いました」。そう、この興行 は皆瀬村の村人達のもの。私らは勝手に混ざって楽しませてもらっただけ。あ りがとうございました。
 ここで知り合った方々と挨拶を交わし、K☆INGと小田原君と車で民宿に 帰る。口がきけないほど感動したのは久しぶりのこと。俺的には横浜と並ぶ今 年のベスト興行と言っていい。商売にはならなかっただろうが、FMWがこん な素敵な興行ができる団体だということを、多くの人に知ってほしいと願う。
 民宿の夕食はてんぷら、刺身、海老など。なかなか悪くない。風呂はもちろ ん温泉。硫黄の匂いがした。


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