1998年7月20日 水戸市民体育館  FMW


千波湖
 
 小田原君はまだプロレスを生で見たことがない。というか、テレビも見てい たのは鶴龍対決の頃までという話。それがなんとなく一緒に水戸までFMWを 見に行く話になった。
 たぶん大丈夫だと思った。小田原君はアメコミファンで、センスもいい ので、きっとFMWがわかる。どういう人がFMWファンに向いているかと言 うと、(俺が思うに)捻りが入ったセンスを持ちながら、同時にピュアな人。 TNRのノリにニヤッとできて、ハヤブサの「胸いっぱい」に感じることがで きれば、申し分ない。「男らしさ」とか、そういうアホなこと口にする奴、セ ンスない奴にはFMWは無理だ。(ゴーマン)
 国立・府中インターから高速に入り、首都高を経て、常磐道に入る。パーキ ングエリアのドライブインで食事。ちょっとした旅行気分だね。水戸にいる小 田原君の友達に携帯電話で道を訊きながら、水戸に着いたのは午後3時くらい。
 時間があるので、偕楽園へ行く。露天で納豆が売ってる。だだっ広い庭園を 歩いていくと、切り立った場所があって、素晴らしいパノラマ。千波湖や武家 屋敷やローカル鉄道が見える。東京よりも空気が良くて、すごく気持いい。小 田原君は煙草に火を付けた。こういう時、俺も喫煙できたら、おいしいんだろ うなと思う。
 徳川家関係の家を見学した後、小田原君の友達がやってきて、ガストでお茶を飲む。 現地人だが、水戸市民体育館なんて知らないと言う。104の番号案内で電話 番号を調べ、体育館に直接所在地を訊いた。橋を渡った川向こうにあるとか。 20分ほど走り、体育館の前のだだっ広い駐車場で彼らに礼を言って別れた。
 しかし、今日のチケットはなんて値段なんだ。1階8000円。2階500 0円。さてはダフ屋に安く流す作戦かと思ったが、ダフ屋も1人もいない。プ ロモーターの意向かもしれないが、客入れる気あるのか。地方興行というのは 前の方で見るチャンスなんだが、初体験の小田原君と一緒なので、2階席にす る。入ってみると、会場はがらがら。しかも、冷房入っていない。それでも、 この前のサウナ状態の名古屋に比べたら、全然マシだった。
 つくづく思ってしまう。東京と地方のこの格差は何? 地方のだだっ広い体 育館の2階席が後楽園の特リンと同じ値段なのだ。で、カードの差は言わずも がな。照明も天井の蛍光灯だけで、冷房もない。ファイト内容に関しては、F MWの選手は地方でも手抜きしないけれど、団体によっては力抜きまくりのと こだってあるし。こんなんで地方が盛り上がるわけあるか! 後楽園がおいし いところをみんな持っていってしまう。バカな客が多いということだけ我慢す れば、プロレスは後楽園で見るのが良いってことなのか。でも、俺は地方の鄙 びたとこが好き。FMWは旗揚げ以来、常に地方を大切にしてきたはずだよね。 カードも照明も冷房も我慢するから、チケットの値段だけは後楽園並みに考え てもらえないか、プロモーターの皆さん。


第1試合 佐々木嘉則 VS 山崎直彦

 バックの取り合い、腕の取り合い、若手の時ならではの基礎プロレスを展開 する2人。佐々木が山崎の左足をねじれば、山崎の佐々木の左腕を取る。山崎、 キーロック。それを力で外した佐々木はアキレス腱固め。そして、逆片エビ固 め。山崎の甲高い金属的な悲鳴は聞き応え十分。
 しかし、山崎、ロープに飛んでのフライングエルボーで大きな佐々木を倒し、 得意のフライングクロスチョップ2発。コーナーから飛んだダイビングボディ アタック。佐々木は余裕あり。山崎をボディスラムで叩きつけ、ギロチンドロ ップ、逆エビ。山崎は串刺しドロップキック、逆さ押さえ込み、ジャパニーズ クラッチホールドと畳み掛け、佐々木の逆片エビ固めも2度に渡ってロープブ レイクへ逃れた。しかし、リング中央に引き戻されてのシャチホコ固めでギブ アップ。握手でリングを降りた。

 


第2試合 ミスター・ポーゴ VS マッハ純二

 意外にもグラウンドでポーゴやや優勢。体が大きい方が寝ても強いんだね。 根性を見せたいマッハ、ポーゴをフライングメイヤーに取って、座り込んだ体 勢のポーゴの背中へ低空ドロップキック。怒ったポーゴ、マッハの背中を蹴り 飛ばし、ボディスラム、腕ひしぎ逆十字。マッハはアキレス腱固めで返す。
 スタンドへ移行。突進してきたポーゴを担ぎ上げて、マッハのブロックバス ター、アニマル浜口を彷彿とさせるランニングエルボードロップ2発。しかし、 コーナーに上ったところをデッドリードライブで叩きつけられ、逆エビに取ら れる。フィニッシュとばかり、のど輪の体勢に入ったポーゴだが、マッハは脇 固め! 沸き上がる館内。しかし、これが最後の抵抗だった。ポーゴのシュミ ット流バックブリーカー、ブレインバスターと大技を受け、最後はネックハン ギングの体勢からのボム。キャリアに優るポーゴの完勝である。

 


第3試合 大矢剛功 VS 岡本衛

 慎重に探り合う2人。なかなか組み合わない。岡本がグラウンドで大矢のバ ックを取ると、大矢は足を決める。大矢、ヘッドロックでじわじわ。岡本は得 意の腕ひしぎ逆十字に行こうとするが、大矢は腕をロックしてガード。
 U系の匂いがあるバトラーツだが、グラウンドでも大矢が圧倒的に強い。腕 を決めながらのヘッドロックに岡本苦しそう。岡本、大矢を腕ひしぎに取るが、 不完全。大矢はアキレス腱固め、岡本はフェースロックから首4の字に移行。
 スタンドになると、岡本はチョップを乱れ打ち、得意のキックも乱打。ニー ルキック、ジャーマン、腕ひしぎ。さらにキックの嵐。しかし、すかされたと ころをバックを取られ、説得力12分のバックドロップ。スリーパーホールド から卍固めに移行して、ギブアップ勝ち。大矢、まさに横綱相撲での勝利。

 


第4試合 池田大輔、スーパー・レザー VS 非道、黒田哲広

 マイクを握る非道。「黒田、俺が今日はお前にタッグの指示を出す。言うこ とを聞け」とりあえず、頷く黒田。
 最初は快調に飛ばしていた池田組。池田はドラゴンスクリュー、ブレインバ スターを非道に決め、レザーと2人でクローズライン。場外で黒田の全力疾走 ラリアットを食うが、レザーがサイドバスターで黒田を叩きつけ、池田がバッ クドロップからコブラツイスト。
 しかし、腕を攻められて、動きが止まる池田。ニールキックや大ちゃんボン バーで散発的に反撃するものの、黒田、非道のタッチワークの早い攻撃に押さ えられてしまう。しばらくの間、やられっ放しである。非道のニールキックを もらうが、非道ちゃんボンバーをよけて、キック一閃。レザーに代わり、パワ ーにまかせた低空ブレインバスター3発。さらにイスをおいてのレッグシザー ズ。非道、イスに顔をしこたま打ち付ける。マスクは脱いでも、技は変わらな い。そりゃ、当たり前か。
 黒田に代わり、重いレザーにジャーマン。レザーは裏投げを返す。黒田はラ リアット2発からダイビングエルボー。黒田と非道、2人がかりでレザーにブ レインバスター。結構、チームワーク良いじゃん。非道、ムーンサルトプレス。 一方的なTNRペースだ。そして、レザーを羽交い締めにした非道。あ、そり ゃやばい。
 黒田のラリアットはよけたレザーの代わりに非道の喉元へ。黒田が動揺する 間に、レザーは放り捨てのファルコンアローのような技。そのまま3カウント が入る。正規軍、勝利。
 非道に向かって何か喋っている黒田。非道は黒田と肩を組み、控室へ帰る。 仲良くなったのかい? それとも控室に戻ってから、黒田が袋叩きにされたん ではあるまいね?


セミファイナル ハヤブサ、リッキー・フジ VS 邪道、外道

 中休みを挟んで、試合再開だ。いつのまにか客席も何とか半分埋まる。平岩 リングアナ、「リッキー・フジ、ハヤブサの入場です!」。へ? この試合、 メインじゃなかったの? いったいメインは何だと思いながら、ハヤブサの入 場を待つ。花道に人垣ができる。
 今日は青いハヤブサ。俺は青との遭遇率が高い。目立つのは左肘の大きな白 い包帯。負傷しているのだろうか。手術を受けた古傷だけに、気になるところ である。
 試合はリッキーと外道で始まった。観客は手拍子でリッキーを後押し。する と、すかさずマイクをつかんだ外道。「リッキーを応援する奴は最低のセンス だぞ」
 ハヤブサと邪道。ハヤブサはスワンダイブ式リングインだけで客を魅せてし まう。巻き投げを連発。場外に逃れた邪道めがけてトペに行くかと見せて、ト ンボを切るフェイント。これ一発で会場のファンの心をつかんでしまうわけだ。 地方興行でのハヤブサに対する期待はハヤブサを見慣れた後楽園の客より1度 温度が高い。
 コーナーに詰められた外道めがけて、リッキー、ハヤブサの順に串刺しアタ ック。リッキーがブレインバスターで投げ捨てた外道に、コーナーポストから 飛んだハヤブサのニーが刺さる。ノビた外道に2人がかりでストンピングを降 らせ、ロックンロールなウォークでアピールである。ハヤブサ、邪道相手に懐 かしいバック転エルボーも見せる。
 邪道はハヤブサのあごに自分の頭をつけて尻餅をつくチンクラッシャーで反 撃。場外に投げ出されると、外道が待っている。客席に投げ込まれ、めった打 ちにされるハヤブサ。リング内に戻されては、徹底した足攻め。外道の低空ド ロップキックがハヤブサの左膝を襲う。さらに折り畳んだイスにハヤブサの足 を挟んで、踏みつける外道。あまつさえ、イスの上にダイブ。苦しむ一方のハ ヤブサ。外道に片方の足を取られたまま延髄斬りに行くが、ひょいとかわされ てしまう。代わった邪道、フロントデスロック。さらにバックドロップ、超滞 空ブレインバスター。邪道がハヤブサを肩車して、外道がそこにブルドッキン グヘッドロックで飛ぶ。観客のフラストレーションは溜まる一方だ。ハヤブサ がやられていたのは、5分以上だろうか。
 しかし、ハヤブサ、空中で霧揉み状態のスクリューキックを見舞って窮地を 脱出する。代わったリッキー、ヘッドロック+パンチ。2人に順番に。タイガ ードライバー。カミカゼ。ハヤブサが出ると、またも膝にドロップキックを受 ける。だが、カウンターのフランケンシュタイナーで邪道を吹き飛ばし、豪快 なケブラーダ。うわー、という感じの観客のどよめき。いつでも見とれてしま うアトミコとブファドーラ。ここで決めるぞという感じでコーナーポストに立 つハヤブサ。ファイヤーバード行くか? と、伊藤豪がハヤブサの背中にイス を叩きつける。墜落したハヤブサ。邪道のウェ スタン・ラリアットを受け、2カウントで返したものの、さらに2人がかりで スーパーパワーボム。ピンチの連続のハヤブサ。邪道は珍しいテキサス・クロ ーバー・ホールドでハヤブサの膝を絞る。
 リッキーの好カットに助けられて、フィッシャーマンバスターで外道を逆さ に落とし、ファイヤーバードスプラッシュ。この試合で最大の歓声。しかし、 伊藤豪がスプレーをハヤブサの顔にかける。目を押さえて、のたうち回るハヤ ブサ。すかさず外道がムーンサルトで飛ぶも、ハヤブサは膝を立てて、剣山。 フィニッシュをリッキーに託し、邪道を場外に釘付けにした。
 リッキー、旋回式垂直落下ブレインバスターで外道をピン。場内、大喜びだ。 外道がマイクを取り、がなる。「リッキー、1対1やるからな。ベルトを取り 返しに来い」その間、リッキーとハヤブサはコーナーにもたれて、お昼寝ポー ズである。
 ハヤブサとリッキーが引き上げた後、音響係の中山を脅している邪外。もう 一度、「サンライズ」がかかる。リングに戻った邪外に山崎が文句を言うと、 邪道は山崎をロープに振ってウェスタン・ラリアット! 伊藤豪も加えて、3 人で「ウィー!」

新コスチューム足を狙われて

合体殺法(Fでは初公開?)2段ベッド


メインイベント 大仁田厚、ミスター・ポーゴ、佐々木嘉則 VS 冬木弘道、中川浩二、金村ゆきひろ

 メインのカードはなんだろ。まだ残っている選手を考えたら、冬木VS金村?  まさか。そんなこと思っていると、平岩リングアナが叫ぶ。
「大仁田厚の入場です!」
 場内、蜂の巣をつつくどころか、たたき落としたような騒ぎ。俺も仰天。な ぜ、ここに大仁田が。テーマはあの「ワイルドシング」。花道に人が押し寄せ、 黒いコスチュームの大仁田が姿を現した。
 最初から大乱戦。リング上や場外でいっぺんに6人が戦う。流れを追い切れ るものではない。大仁田がメインに出ることに複雑な気持ちながら、それでも 思わず眼が潤んでしまうのは、旗揚げ以来のFMWファンの性か。大仁田はリ ング中央で冬木に頭突きの嵐。DDT! 冬木のラリアットが大仁田に刺さる と、場内は大「大仁田コール」である。
 中川のフォーク攻撃が大仁田を襲う。金村が机を立てかけ、そこに大仁 田を叩きつけてゆく。大仁田、3人相手に人間モグラ叩きで反撃! 爽快感あ るね。ポーゴが冬木にサンドカッター。佐々木、ポーゴ、大仁田の順でコーナ ーの冬木に串刺しタックルやラリアットをかます。冬木、ポーゴにパワーボム、 スーパーパワーボムを見舞うも、根性を見せて、はね返すポーゴ。冬木、とど めだとばかり、地団駄を踏んだ。と、その背後から大仁田がフェースクラッシ ャー。地団駄踏んだまま、顔面をマットに叩きつけられる冬木。おかしい♪  体重のある冬木に完璧なサンダーファイヤー! 決まったかというところ、カ ットが入ってしまう。
 冬木、ポーゴをイスへのパワーボム。これは3カウントぎりぎりで耐えたポ ーゴだが、中川も加わっての2人がかりのイスへのパワーボムでついに3カウ ント。荒井社長を呼ぶ冬木。荒井社長がしぶしぶリングへ上がると、冬木、素 人へのラリアット! 中川がフォークで荒井社長の額を切り裂いてゆく。しか し、ハヤブサたちは来ない。こんな状況でも、ハヤブサと大仁田は交わらない のである。荒井社長、絶体絶命か。
 その時、リングサイドに黒い人影が!→一昔前のプロレス雑誌風。リングに 飛び込み、金村や中川を蹴散らす。保坂だ。敗者廃業マッチで追放された保坂 が帰ってきたのである。この水戸でここまでやってくれるか。すごいぞ、FM W。料金が高いのも少しは納得か? 保坂に呼応し、息を吹き返した大仁田。 冬木を羽交い締め。冬木につかみかかる荒井社長。場内はすでに狂乱状態だ。
「正ちゃん!」大仁田の絶叫と観客のマットバンバン。フクザツな気持。でも、 この大会が大成功であったことは疑いようがない。満足そうな客の群に流され て、会場を出た。

大乱戦もぐら叩き

このTFPBは見事!荒井さんが・・


 オバケさんを自分の車に駅まで乗せていく。共通した感想は「来て良かった」。 地方でここまでやるとは思わなかった。高い入場料もちょっと納得か。
 オバケさんと水戸駅で別れ、真っ暗な常磐道を走る。小田原君は予想通り楽 しんでくれた。いかがわしい物が我々は大好きなんである。
「素晴らしい手品があるとすると、西欧人は拍手喝采ですよね。ところが日本 人はタネがどうなってるんだろうと考えてしまう。FMWは日本人には受け入 れにくいんじゃないですかね」
「最近ようやく少しだけ変わってきたよね。エンターテイメントを素直に楽し めるようになってきたでしょ」
 小田原君のお気に入りは外道。キャラクターがなんとも良い感じだと。リッ キー、ハヤブサも絶賛。やられている時の山崎の声もたまらないと言う。さす がに目の付け所がいい。パーキングエリアのドライブインに入り、納豆そばを 啜る。俺は高速道路のパーキングエリアが好きだ。大勢の人たちがいるけど、 この人達はみんな旅人なのだから。それぞれ別の場所への移動の過程にいる人 たちのほんの短い遭遇。誰も僕を知らない。
 またエンジンをかけ、ほのかなヘッドライトを頼りに闇の奥へ走る。やはり 遠征は素敵だ。旅+プロレス。この鄙びた味を知ったら、後楽園なんて、「け っ」て感じかい。小さな町でも、全力で戦うFMWの選手。家に着く前から次 の遠征について話し合っていた。次は温泉付きか?


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