1998年4月26日 後楽園ホール WAR
「え、荒谷ウォーいくんですか? うひゃうひゃうひゃ」
「ふへっへへへ、知ってます? 荒谷ってパワーボムをムーンサルトでカット
するんですよお!」
「だいたいダブリュ・エー・アールなんて呼ぶのはWARファンだけですよ。
WARなんてウォーでいいんですよ、ウォーで」
WARを観るというのはそんなに人間として恥ずかしいことなのか?(そん
なわけねえだろ)21日のFMW後楽園大会の後、水道橋の949で飲んでい
た時、うっかりWARなんて単語を出したら、こういう騒ぎになったわけであ
る。彼らは天龍最後の出場となった前回のWAR後楽園大会を観戦したという。
そこで相当スゴイものを見せられたというのだ。この大会は別の人に訊いても、
ある独特な含み笑いをする。一部ネット上でも、話題騒然。貶し、罵倒する声
だけしか聞こえてこないほど。そんなに絶望的なほどスゴイものなら、見に行
くべきだった。めったにあることではない。
とは言っても、俺はWARは旗揚げ戦だって見ているんである。新日との交
流開始となった横アリだって行った。FMWとのタッグ頂上対決も、夢の大仁
田、天龍、ビガロ組もしっかり観戦した。でも、あの頃と今では何もかも違い
すぎる。年に何度も国技館や横アリで大会を開いていた当時、第1試合が邪外
だったりした。「WARはインディではない」というはったりもそれなりに通
じたんである。今やあのころの主要メンバー、天龍も原も石川も冬木も、カブ
キ、北原、折原、ハク、誰一人いない。
6時に会場入り。同じ後楽園ホールでも、ここはFMWの会場ではない。だ
から、もちろん見知った顔はいない。ホールに入って、びっくり。この入りは
ねえだろ。がら空きなんてもんじゃねえぞ。招待券配らなかったんだろう。だ
いたい、1000人くらいではないか。俺の経験の中では最低の入りだったパ
イオニア戦志だってもっと入っていた。もっとも、実券枚数ではなんとも言
えないが。茫然として席に座っていると、友人の村越がやってきた。
「まいったぜー、契約1億円穴を開けちまった」
プロレス観てる場合か?
第1試合 ニーハオ VS 嶋かおる
北原光輝の主宰するキャプチャーの試合。二人ともタッパはかなり小さい。 ニーハオはレスラーぽい体つきだが、嶋はボクサータイプ。二人ともキックを 中心にして戦う。こういう試合だから、ガチなのかと思ったが、よく見るとプ ロレスだった。と、言うか、よく見なくてもプロレスだとわかった。フランケ ンシュタイナーやフライング・ヘッド・シザーズが飛び出すんだもん。で、面 白かったかというと、面白くなかった。大技連発のプロレスの華やかさもない し、格闘技本来の緊張感もないので。かたちの崩れた危険なスープレックスか らヒザ十字固めに繋いで、ニーハオの勝ち。
第2試合 岡村隆史 VS 怨霊
えー、怨霊出るのか! 知らなかったが、こりゃ嬉しい。「デビルマン」で
入ってきた岡村に続き、不気味な音楽で顔を青く塗った怨霊が登場。大変人気
のある選手と聞いていたが、声援はほとんど飛ばない。対する岡村はすごく人
の良さそうなアンちゃん。いかにも憎めないという感じ。二人とも体格は思っ
ていたよりかなり小さいようだ。
笑いながら余裕をみせる岡村。組み合うなり、怨霊が手を噛む。岡村のセリ
フ。
「おかしいんじゃない? この人」
そう言いながら、相手の手を噛み返す岡村。そうすると、怨霊は今度は岡村
の足を噛む。かみつきプロレスはとても和むねえ。
つきあってられんとばかりに岡村はキックの嵐。場外に落ちた怨霊を場外マ
ットで簀巻きにして、上に飛び乗る攻撃。中学校の修学旅行の夜にしばしば蒲
団を使って行われた技だ。こんなもんだよとばかりにマット上で余裕を見せる
岡村。その間、場外の怨霊はリングの下をくぐり抜け、岡村の背後へ。岡村の
足をすくい、場外へ連れ出し、鉄柱攻撃だ。リング内に戻り、スリーパーで岡
村を締める。岡村はキックで返すが、再び局面は場外へ。怨霊はトペコンを放
ち、イス攻撃。かなり思いっきり。
場内に戻り、岡村のジャーマンは危険な角度で落ちる。怨霊のラ・マヒスト
ラル、膝へのドロップキック、しかし、最後は強烈なキックで岡村が攻め手を
取った。DDT、ノーザンライトボムで岡村の勝ち。
第3試合 望月成晃 VS 超電戦士バトレンジャー
バトを生で見るのはFMWでの最後の試合(95年6月)以来。体が少し太
くなったような気もする。この2人は確か組んでタッグ王者にもなったはずで
ある。しかし、これほど外見的に調和の取れないタッグチームもちょっと珍し
い。ピカピカした一昔前のヒーローと不良少年あがりの空手家。
バト、いきなりニールキックの奇襲で試合がスタート。ラリアットで場外に
吹っ飛ばす。そして、早くもバト最大の見せ場、ラ・ケブラーダ! うーん、
ちょっと苦しい。いつもハヤブサのを見慣れているからね。高さがない。滞空
時間が短い。ハヤブサと比べては酷かもしれないが、フライングキッド市原の
と比べても、いまいちだと思う。
望月はキックで反撃。ブレインバスターを2連発で放ち、DDT、ギロチン
ドロップも。バトは延髄斬りで望月を場外に落とし、コーナー最上段から場外
への豪快なプランチャ。ここからバトの猛攻。フィッシャーマンズスープレッ
クス、ライガーボム、雪崩式フランケンシュタイナー、スウィングDDTは見
透かされて失敗。望月は踵落とし、ジャーマン。ニールキックは空振りし、バ
トの最後の反撃としてジャーマン、チンクラッシャーをくらうものの、丸め込
みの応酬の後、キックの嵐で勝負あった。最後は棒立ちになったバトをドラゴ
ンスープレックスで叩きつけ、ピン。
第4試合 菊池淳 VS 多留嘉一
多留は片腕に入れ墨入っていて、怖い。体も武輝道場の中では大きい方だろ
う。実際、凶暴のようで、菊池を蹴りまくり、イスで殴り、観客のただ中に叩
きつける。ニールキックや腕ひしぎ逆十字なども繰り出し、ほとんど試合は多
留がリードしていた。
菊池は体が大きく頑丈だが、動きがやや重い。こんなとこもいかにもWAR
の選手。残念ながら、メモを取らなかったので、試合の展開についてはほとん
ど覚えていない。最後は菊池のパワーボム2連発。決めた2発目の方は菊池が
腰砕けになったので逆に危険な角度になり、ちょっとひやっとした。
第5試合 石井智宏、一宮章一 VS 山田圭介、山下義也
何とSWS時代のレボリューションのテーマで入場の石井組。IWA側が奇
襲攻撃をかけ、山田が石井を客席に放り込み、イスでめった打ちにするところ
から試合は始まった。
結果から言えば、非常に面白い試合だったと思う。なんといってもIWAジ
ャパンの山田が考えていたよりはるかにいい選手であることにびっくりした。
一つ一つの技に説得力がある。タメを効かせてから、思い切り首を刈り取
るラリアット。イス攻撃も容赦なく、顔立ちもふてぶてしく貫禄が漂っている。
旗揚げ戦で腕に裂傷を負いながら、冬木にケーキを顔になすりつけられていた
可哀想な姿が頭にあったので。パートナーの山下も体が大きく、一見おとなし
そうなわりになかなかのガッツを見せる。試合には負けたIWA勢だが、ファ
ンの印象に残ったのは彼らだったんではないか。
一方、WARの石井は外見的には高田をプレスして縦に縮めたような選手。
なかなかかっこよく気迫もあるだけに、背が小さいのは残念。けれど、層の薄
いWARの中では、重要な位置を占める選手になるだろう。団体がすぐに潰れ
なければ、だけど。一宮ははげ頭。体はとりあえず大きいが、この日は技の失
敗が目立った。セントーンなど相手の上を飛び越えて、マット相手に炸裂させ
ていた。
前半はIWAに押されまくったWARだが、後半、気迫で挽回。一宮など体
がもたついて反撃できないのに、山田の顔に唾を吐きかけ、意地だけは見せる。
最後は石井が垂直落下式ブレインバスターからフライングボディアタックとつ
ないで、山下を葬った。
第6試合 荒谷信孝 VS 安良岡裕二
対峙した両者を見比べ、考えていたよりもはるかに体格差があることを知る。
身長で15p、体重で40sぐらいは違いそうである。これはちょっと厳しい。
いい試合にはなりそうにない。まして、小さな安良岡の方が負傷しているとあ
っては。
組み合っては、吹っ飛ばされる安良岡。これは試合にならないかと思ったら、
いきなりバックを取って荒谷の巨体を投げっ放しジャーマン! ソバットで場外
に吹っ飛ばし、プランチャ。もたつく荒谷をスピーディーな飛び技で攻める安
良岡。しかし、一発の重みが違う。荒谷は軽く逆転すると、パイルドライバー、
ラリアット、ボディスラム・・・。安良岡を追って場外に出ると、イスを手に
掴む。途端にわき起こるヤジ。「そんなもん、使うな!」FMWや大日本だっ
たら、歓声が起こるとこなんだが。(^-^; 荒谷は罵声を受け流し、安良岡の背
中に思いっきりの一撃。先にリング内に戻り、エプロンにはい上がってきた安
良岡をラリアットで吹き飛ばす。続けて、垂直落下式ブレインバスター。「立
て、こらー」あまり怖くない荒谷。
安良岡、必死の反撃。ジャーマン、三角飛びドロップキック、DDT。さら
に雪崩式ブレインバスターをしかけるも、荒谷の体重を持て余し、自分が下敷
きになってしまう。フランケンシュタイナーもパワーボムで切り替えされる。
荒谷、必殺のムーンサルトプレス。当たり所がずれて、安良岡、何とかクリア
ー。ならばもう一発とコーナーにあがった荒谷。すかさず安良岡はコーナー2
段目の荒谷を捕らえて雪崩式バックドロップ。いまいちのドラゴンスクリュー。
ラ・マヒストラル。なぜか場内は荒谷に対するヤジの嵐である。
最後はラリアットの3連発からサンダーファイヤー気味のパワーボムで荒谷
の完勝。場内ブーイングの渦。なんで、なんで? こいつら、よくわからん。
選手はがんばっていたように思ったんだけど。好きな選手や団体に対して評価
が厳しくなるのは俺も同じだが。
うなだれる荒谷に望月が襲いかかる。客は望月に大歓声。でも、ここに出て
くる顔じゃないと思うんだけど。一番怒ったのは安良岡。あたりまえだ。けれ
ど、安良岡はバトや石井に取り押さえられ、なし崩しに予定になかった試合が
始まった。
特別試合 荒谷信孝 VS 望月成晃
「望月のバカヤロー」リング下でバトらに抱えられながら、切なそうに叫ぶ安
良岡を尻目に試合が始まった。
スタミナを消費している荒谷を蹴りまくる望月。プランチャ、イス攻撃で追
い打ち。しかし、荒谷はラリアット、ブレインバスター、イス攻撃、パイルド
ライバー。小さな望月はその一撃一撃で死んでしまいそうだ。荒谷の顔面に踵
落としを入れ、また蹴っ飛ばすも、もう時間の問題。荒谷のムーンサルトプレ
スにも耐え、ドラゴンスープレックスを決めたのが最後の抵抗だった。ラリア
ットの相打ちでは軽く吹っ飛ばされ、もう一発ラリアットを食らうと望月は気
持ちよくノビた。
どんよりした雰囲気の会場。望月は「自分はWARの所属ではありませんが、
このマットに愛着があります。荒谷をよろしくお願いします」とすがすがしい
アピール。「望月がエースになれ」というヤジ。荒谷はアピールすることもな
くリングを降り、さんざんヤジっていた客の前に行って、深々とお辞儀。にや
にや笑っている客。なんか頭に来た。いったいこいつら何が見たいんだ?
村越と一緒に武井社長に挨拶。
「こいつが俺の友人のプロレスおたくです」と村越。
「どうも、プロレスおたくです」と俺。(^-^;
「しょっぱいプロレスですいません」と武井社長。しょっぱいなんて社長自ら
言わないでくれー。
「素晴らしい試合でした」と俺。
村越はいつものように二言目に「社長。女、紹介してくださいよ!」。
「女もいろいろ人によって好みがありますからねえ」やんわりかわす武井社長。
「芸能人、紹介してください」常にしつこい村越。
水道橋の天狗で飲む。「荒谷を見てたら勇気が湧いてきたぜ」と村越。
「一億円の穴なんてもう気にもならねえ」
久しぶりに見るWARは悪くなかったけれど、ちっと重かった。
個人的な本日の大賞
| ベストマッチ | 石井智宏、一宮章一 VS 山田圭介、山下義也 |
| MVP | 荒谷信孝(ヤジも飛んでいたが、ともかくがんばった) |
| 殊勲賞 | 山田圭介(また見たい選手) |
| 敢闘賞 | 安良岡裕二(今日、一番気持の伝わってきた選手) |
| 技能賞 | 望月成晃(ひどい雰囲気だった会場を締めてくれた機転の良さ、男気) |